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2012

03/02

Fri.

07:07:35

こいしり 

Category【日本文学


こいしり (文春文庫)こいしり (文春文庫)
(2011/11/10)
畠中 恵

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書き出しをご紹介します。

 江戸は神田で、八つの支配町を持つ古町名主の高橋家では、今日、跡取り息子麻之助の婚礼が行われることになっていた。
 一人息子の麻之助は、かつては支配町中から期待された、生真面目っで勤勉な若者であった。それが、どこでどう人生に蹴躓いたのか、六年前、すっかりお気楽な者に化けてしまっていた。
 つまり、ちょいと……大分、いや相当、真っ当な所が、消え失せてしまったおいうわけである。
 よって日々心配をし続けてきた親達は、縁談が来たとき、麻之助が今回も気楽に考え、逃げて消えないかと危惧した。それで野崎寿ずとの結納が交わされると、当人が塀を乗り越え遁走しようなどど考えぬ内に、早々に婚礼をあげる決意をしたらしい。つまり、驚くほどの速さで婚礼の準備を整えたのだ。



しゃばけシリーズで有名の畠中恵さんの小説。麻之助が主人公の作品は、この前に『まんまこと』というのがあります。

実は私、この『まんまこと』の内容をぺろっと忘れておりました。きっと若だんなシリーズをついこの前読んだばかりだったからかもしれません。というより、麻之助のキャラクターが若だんなほど濃厚ではなかった、というのもあるかもしれません。

ということで、読み出しから最後まで「麻之助ってだれだっけ?」と思いつつ読み続けました。内容的には前作がわからなくても読み続けることができますので、江戸時代の雰囲気がお好きな方には面白いと思います。

内容は、麻之助の本業、町のトラブルを解決する名主を中心に繰り広げられています。江戸を舞台とする小説によくある、問題解決ですね。大岡越前みたくしっかりとした解決っぷりではなく、ちゃらちゃらと事件を解決するのが麻之助のスタイルです。友人たち、そしてこの作品では新妻にも助けられつつ身近な問題を解決していくお話です。短編がいくつか収められています。

 この本を読んで 

・実は読むのにすごく時間がかかってしまいました。何のことはない、忙しかったからなのですが、再び読み始めるたびに「あれ、どんな話だったかな?」と少しページをさかのぼらなくちゃならない。あまり私の記憶には残りにくいストーリーだったかも。



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2012

02/06

Mon.

22:51:50

ころころろ 

Category【日本文学


ころころろ (新潮文庫)ころころろ (新潮文庫)
(2011/11/28)
畠中 恵

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書き出しをご紹介します。

「朝起きたらわれは、布団になっているに違いないや」
 昨日も一昨日もその十日前も、一月前も、ずうっと変わらず、長崎屋の離れの寝間で寝込んでいた長崎屋の跡取り一太郎は、とうとう病人でいることに草臥れてしまった。
 一太郎と言えば、気合の入った病人あり、齢十二にして手練の病持ちであった。よって、日ごと違った病に罹ることには確かに慣れてはいる。
しかし、だ。もう大きいのだから限度というものがあっても良い気がすると、一太郎は布団に埋もれつつぼやいているのだ。
「人には二本、足があるんだもの」
だから寝てばかりいるより歩く方が、人らしい。それに、この世で一番親しいのが布団で、二番目が薬湯だというのは、どう考えても情けのない話ではないか。



この頃めっきり読書から遠ざかっておりましたが、少しずつ読書のペースを戻していきたいと思っています。1日1冊(ページにして250ページくらいかな?)を目標にリハビリ開始です。

さて、このシリーズのおかげで、ますます毎年年末が楽しみになりました。というのも、毎年12月に文庫本が発売になるからです。

しゃばけシリーズ、今回は若だんなが12歳のお子様時代に逆戻り。怪たちは相変わらず若だんなのまわりに集合しており、若だんなを守るために体を張っています。

今回は二人の兄やが本当するシリーズ。若だんなは相変わらず弱りきっており、今回は目が見えなくなってしまうという大事件です。


 この本を読んで  

・今までなら楽しさのあまりにさーっと数時間でワクワク読み込んでたのに、夜にちまちま読んでいたので完読までに1週間もかかってしまった。

・というよりも、若だんなの冒険っぷりが少ない印象が。だから読み進まなかったのかな?なんとなくキャラクターの個性も薄い印象が残りました。


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2011

10/30

Sun.

15:29:49

楡家の人びと(上下) 

Category【日本文学



楡家の人びと (上巻) (新潮文庫)楡家の人びと (上巻) (新潮文庫)
(1996/02)
北 杜夫

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書き出しをご紹介します。


 楡病院の裏手にある賄場は昼餉の支度に大童であった。二斗炊きの大釜が四つ並んでいたが、百人に近い家族職員、三百三十人に余る患者たちの食事を用意しなければならなかったからである。
 竈の火はとうにかきだされ、水をかけられて黒い焼木杭になった薪が、コンクリートの床の上でまだぶすぶすと煙をあげていた。しかし忙しく食器を並べている従業員んの誰も、そこへ行って燻っている薪を始末しようとはしなかった。そんなことにかまっている閑もなかったし、なによりもそこは伊助爺さんの領分だったからだ。彼はもう十五年この病院で飯を炊いていて、おまけに御多聞にもれぬ一刻者、ちょっとしたことでも他人に嘴を入れられることは容赦できない臍曲がりだったのである。



しばらく読書をする時間が取れず、反省することしきりの今日この頃です。先日日本のニュースで北杜夫先生の訃報を知りました。丁度上の本を読んだばかりで、マンボウ先生シリーズも読んでみたいと思っていた矢先のこと。ご冥福をお祈り申し上げます。


さて、この本は新潮文庫から上下2冊で出ております。長編小説ですので、上下各450ページくらいありますので、まとめてどっぷり読書できる日におススメです。

時代は明治。主人公は「楡」と言う変わった苗字を持つ一族です。当主は精神科医でドイツにも留学経験のある楡基一郎ドクトル。基一郎先生が築いた楡脳病院は青山にありました。七つの塔と円柱が並ぶ立派な病院で、その界隈に住む人なら誰もが知っていた大病院です。

今は楡姓を名乗っている基一郎先生ですが、実はドクトルは東北の田舎の出で、楡という苗字は後から自分でつけたもの。地方のお金持ちの娘さんと結婚し、医者として洋行し、子供にも恵まれたドクトル。彼には回りを圧倒させる優雅さがありました。どんと構えて動じない。なのにどこかエレガントなドクトル。

彼には3人の娘と2人の息子(そして外で生ませた子も何人かいたらしい)がおります。長男はどうにも頼りにならず、東北の大学でうだうだと医者になる月日を延ばしている。長女は楡病院の誇りだけを胸に生きる気高い女性に。2女は美しく、3女はおてんば、末息子はなんとも弱弱しいなりをしている。

この物語は、基一郎ドクトルから3代目まで続く楡家の人々の波乱万丈の人生を描いたものです。明治から昭和まで。もちろんその間には関東大震災があり、戦争がある。当時の人々の生活から見られる人の心というのが溢れている作品です。

 この本を読んで 


・すーっと入ってくる文章が快く、上巻はすぐに読めました。下巻に入り戦争の表現が多くなり、楡家の様子がどんどんと変わってくるにつれ、読み手にもどんどん重いものが積まれていくような気持ちになります。

・時にユーモアが見えます。意外なところに現れるコミカルさにまたまた内容に引き込まれたかも。



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2011

08/08

Mon.

23:18:07

不毛地帯 

Category【日本文学


不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))
(2009/03)
山崎 豊子

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書き出しをご紹介します。

一章 出会い

 社長室の窓の外に大阪城が見え、眼下に帯のような堂島川が見える。
 近畿商事の社長である大門一三は、朝、出社すると、窓寄りの机に坐り、大阪城を視野におさめる。冴えた冬陽の中で、天守閣の甍と塗籠の白壁がくっきりと空に聳えている。大門一三にとって、城は覇者の館であり、戦を連想させ、商社の日々の烈しい闘争心が鼓舞される。次に社長室の壁面一杯に拡がった近畿商事の海外支店網に視線を移す。
 銅板で造った世界地図の上に、各地に所在する海外支店が赤ランプで、出張所が青ランプで標示され、経度の左右に現地時間が記されている。東半球は眠りに入っているが、西半球の各地では、今百五十人の駐在員がテレックスと闘い、或いは飛行機で空を飛んでいる。それを思うと、大門の眼に強い活気が漲って来る。



山崎豊子さんの作品を読んでみたいと、こちらを手に取りました。文庫本で全5巻からなります。


『白い巨塔』は韓国でもドラマ化され、大変な人気となりました。本書も昭和50年代に書かれたものですが、今ドラマ化しても何ら違和感ないのでは?と思います。

主人公は対戦中に大本営の参謀だった男。彼は終戦後にシベリア拘留となり、戦後も11年の間、ソ連の極寒の土地で強制労働に耐え抜き、昭和30年が過ぎてようやく日本に戻ることができました。男の名は壹岐と言い、妻と二人の子供のいる日本へ戻っても、シベリアでの日々が頭から消えない。

そんな彼を大阪にある商事会社がヘッドハンティングします。決して壹岐の軍人としての力に頼らないと言う約束で彼をつれてくる。商事会社で勤務するようになった壹岐は、まず11年の歳月を埋めるべく、午前中は図書館に通って新聞を読む傍ら、商事会社の仕事を覚えていきます。

そのうち、壹岐が頭角を現す事件が出てくる。ライバル会社の東京商事の鮫島という男が、近畿商事の前をちらつき、都度あるごとに壹岐の行く手を阻みます。

商売と参謀が以外なところで結びつく点に面白さがあります。5冊、あっという間に読めることでしょう。


 この本を読んで 

・ビジネス小説、久しぶりに読みました。今、とにかく興奮冷めやらずな感じです。


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2011

08/04

Thu.

22:03:13

永遠の0  

Category【日本文学


永遠の0 (講談社文庫)永遠の0 (講談社文庫)
(2009/07/15)
百田 尚樹

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書き出しをご紹介します。

プロローグ

 あれはたしか終戦直前だった。正確な日付は覚えていない。しかしあのゼロだけは忘れない。悪魔のようなゼロだった。
 俺は空母「タイコンデロガ」の五インチ高角砲の砲手だった。俺の役目はカミカゼから空母を守ることだった。狂気のように突っ込んでくるカミカゼを打ち墜とすのだ。
 我々の五インチ砲弾は近接信管といって、砲弾を中心に半径五〇フィート(約十五メートル)に電波が放射されていて、その電波が飛行機を察知した瞬間に爆発する仕組みになっていた。最高の兵器だ。それを何百発と撃つんだ。ほとんどのカミカゼは空母に近づく前に吹き飛んだ。
 初めてカミカゼを見た時にやってきた感情は恐怖だった。俺が「タイコンデロガ」に乗り込んだのは一九四五年初めのこと。噂に聞いていたカミカゼを目の当たりにし、こいつらに地獄の底まで道連れにされると思った。スーサイドボンバーなんて狂気の沙汰だ。そんなものは例外中の例外だと思いたい。しかし日本人は次から次へとカミカゼ攻撃で突っ込んでくる。俺たちの戦っている相手は人間ではないと主他。死ぬことを恐れないどころか死に向かって突っ込んでくるんだ。こいつらには家族がいないのか、友人や恋人はいないのか、死んで悲しむ人間がいないのか。俺は違う、アリゾナの田舎には優しい両親がいたし、許嫁もいた。



おススメ小説の記事を読むと、よくこの書籍が出てきます。8月ということで、私も早速読んでみました。

書き出しにもあるように、テーマは大戦にあります。母方の祖母が他界し、母の実の父が戦死していたことを知った姉弟。祖父と祖母はとても仲がよく、まさか祖母が別の人のところへ嫁いでいたとは考えられなかった二人は、血の繋がった祖父の記憶を辿るべく亡き祖父を知る人を訪ね歩いて、祖父の死へ迫ります。

弟は弁護士を目指して司法試験の勉強をしていましたが、幾度も失敗を繰り返して今はフリーターのような生活をしていました。祖父が30を過ぎて弁護士を目指し、市井の人々を助ける姿に「俺も弁護士になる」と志したのですが、なかなか進展してはいかない。

ジャーナリストを目指す姉は、ある日母から実の父への秘める思いを聞きます。一体どんな人であったのか。丁度ぶらぶらしていた弟にその調査を依頼します。弟の調査が進むにつれ、祖父の人柄や戦争の矛盾が見えてくる。

とにかく涙せずにはいられない小説とのことでしたが、その触れ込みは本当だったと言わざるを得ません。8月、読むべき1冊。

 この本を読んで 

・600ページ近い本ですが、一気に読めます。戦争ものが苦手な人でも絶対感動するはずです。



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2011

07/27

Wed.

20:34:12

情事 

Category【日本文学


情事 (集英社文庫 143-A)情事 (集英社文庫 143-A)
(1982/04/20)
森 瑤子

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書き出しをご紹介します。

 夏が、終わろうとしていた。
 見捨てられたような一ヶ月の休暇を終えて、秋への旅立ちを急いでいる軽井沢を立ち去ろうとしながら、レイ・ブラッドベリや、ダールの短編の中に逃げ込んで過ごした、悪夢のような夏の後半の日々を、考えている。そして、エルビス・プレスリーの突然の死をFM放送で聞いた八月の半ば、私の中で、青春の最後の輝きがまたひとつ、確かに消えていったのを、識った。
 木漏れ日が、白く光ながら庭の芝の上へと降り注ぐのを、ほとんど上の空で見惚れていると、一瞬、心の波立ちは静まり、その微かな波間に隠された、たくさんの悲しい傷は、痛みの記憶を忘れたかのようにみえた。が、次の瞬間には、木立の中に吹く風のたてる、わずかな変化にさえも、心臓は激しく揺す振られ、すぐにまた、あの辛かった言い争いや、あるいは、思い遣り深かった官能の数々の仕草や、恐ろしかった夕食の情景などの中に、再び、引き戻されてしまうのであった。
 情事の終わりが、あんなにも残酷だったのは、蒼ざめてついた、愚かな嘘のせい。人生に様々な思いを味わってきた。大人の女であったにも拘わらず、私は、レインの前に、完璧で、びくともしない、虚偽の積木の城を作り上げてみせることが、できなかった。



文庫本の諸般が1982年に出ていますから、今から約20年前。ちょうどバブル期の頃のお話です。帯には「バブル前夜、当時彼女は憧れだった。誰もが大人の女・森瑤子の世界に夢をみていた。1982 ベストセラー」とあります。

私が最初にこの本を読んだのは、確か山田詠美さんの作品を読むようになってからだったと思います。久々に森瑤子さんの作品が読みたくなり、先日帰国した際に購入しました。

主人公は作者と同じ「ようこ」という名の女性。漢字は「洋子」ですが、ところどころに著者に重なる部分があります。イギリス人の夫との間には一人娘がいます。昔は音楽を志していたのですが、今は翻訳業に携わっている。まるでこんな部分も作者に似ていますね。

洋子の夫は海が好きで、休みとなると海へ出る。自然、二人の関係はどんどんと冷めたものになりつつあり、洋子は外の世界に愛情や性を求め始める。洋子と夫が行きつけのバーは外国人が多くあつまり、洋子もその中に溶け込みつつ、どうにか心の隙間を埋めようとします。

そこで出会うのがレインです。タイトルが「情事」ですし、洋子とレインは不倫の関係に入っていくのですが、その描写が当時は本当に本当にせきららと言いますか、大胆でした。

でも、内容はそんな大胆さと異なり洋子の心の動きが「あー、なんか分かるわー!」と女性の恋愛の肝みたいなものを見せてくれます。

 この本を読んで 

・この本で一番印象に残っているのは洋子が「ぼくのために泣け」という作品を読んでいるところです。この本、私も好きでよく読み返すのですが、そのシーンと読んでいる作品の合わなさが強く心に残りました。

・しかし、いつ読んでもこの作品は「うーん」と唸ってしまいますね。もう少し、森作品を読み返したいと思います。



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2011

07/26

Tue.

05:48:32

今夜、すベてのバーで 

Category【日本文学


今夜、すベてのバーで (講談社文庫)今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
(1994/03/04)
中島 らも

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書き出しをご紹介します。

「普段からこんな色なんですか、あんたの目」
 医者がおれの上下のまぶたを裏返してのぞき込む。
「はあ。ま、どっちかっていうと濁ってるほうですが。でも、すこし黄色っぽいかな」
「“すこし”じゃないでしょう。顔の色だったほら、まっ黄色だ」
「黄色人種だからね」
 おれは口をきくのもだるかったのだが、癖で軽口を叩いてしまった。
「冗談言ってる場合じゃない。黄疸だよ、これは」
 年配の看護婦が、さっき取ったばかりのおれの血液検査の結果を持ってきて医者に渡した。医者は鼻眼鏡の置くの、糸のような目で検査用紙を見ている。おれもその紙をのぞこうとしたら、ついっと紙を立てて隠した。
 そして、その用紙越しに医者はおれの顔を二、三秒、黙ってながめた。
「あなた。この病院まで独りで来たの?」



中島らもさんの作品を読みたくなり、ずっとずっと読まずにいた作品を引っ張り出してきました。

書き出し部、病院のシーン始まっていますが、この作品の舞台は病院です。主人公はアルコールで体を壊した35の男が、独り病院へやってくる。なにか黄色い顔に黄色い目。明らかに肝臓を患っている姿です。

男は小島と言い、5人部屋で治療を始めます。同室には体が弱く高校生の年齢に達しながらも中学を卒業していないという男の子、老人二人、そして小島と同じアルコール中毒の男。それぞれ、病気とともにそれぞれの背景があります。

このお話、らもさんご自身のお話に重なる部分が多いですね。残念ながら私は小島のように、そしてらもさんのようにお酒を欲し、飲まずには居られないといった経験がありません。ですので、これをお菓子や珈琲なんかに置き換えて考えてみたのですが、結局人の意志なんですよね。嗜好品は摂取しなくてはならないものではありません。まったく関心のない人には体を滅ぼし、お金の無駄になると思えるんだと思います。でもやめようと思っても、なかなかすっぱりやめるのは難しい。

人間模様の見える小説です。

 この本を読んで 

・すごくすごく前に一度読んだきり、長い間手にしておりませんでした。そうそう、この医師もまた印象的なんですよね。

・読むにつれて、読者もお酒を飲んで酩酊しているかのような気分になるのですが、その霧のようなイメージもだんだんと晴れていくような流れが圧巻です。


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2011

07/13

Wed.

11:45:59

天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 

Category【日本文学


天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)
(2011/05/28)
上橋 菜穂子

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書き出しをご紹介します。

 

バルサ、あなたは、いま、どのあたりにいるのだろう。
あなたのことだ、大軍を率いているわたしたちより、ずっと身軽に山を越えて、もうタンダに会っているのかもしれないね。―懐かしいなぁ、あのタンダの家。わたしはもう、二度と見ることはあるまいが……。

こちらは、昨日、無事に国境の峠を越えたよ。
カンバルの騎馬兵たちは、無骨だが、心やさしい者たちばかりだ。みな、どこかあなたに似ている。
もうすぐ、イーハン王子のおられるジタンに着く。時短に着いたら、綿密に作戦を立て、それから、出発だ。―いよいよ、新ヨゴへ向けて。

長かった。でも、あっという間だったような気もする。

新ヨゴは、どうなっているだろう。シュガたちは、息災だろうか。母上は、ミシュナは、―父上は……。




守り人シリーズの最終章。ああ、本当に終わってしまったー!!!

バルサと分かれたチャグム王は、カンバルにての連盟の手立てを整え、いざロタとカンバル軍を率いて新ヨゴへ戻ります。チャグム王が諸国にて苦戦を強いられている間、新ヨゴはタルシュの軍によりどんどんと痛みを負っていました。軍の規模にも雲泥の差がある上に、長年戦とは縁のなかったヨゴの民は急場しのぎに草兵を徴収。各村から働き手である男たちが連れて行かれ、何の訓練も受けていない庶民がどんどんとタルシュの餌食となっていきます。その草兵にバルサの想い人、タンダも連れて行かれる。

チャグム王に新ヨゴを救うことができるのでしょうか。タンダは無事なのか。バルサとの人生はどうなるのか!

最後の最後までハラハラが続きます。最終章の3部作は途中で投げ出せないほどのおもしろさでした。

【守り人シリーズ 関連記事】
・精霊の守り人
・闇の守り人
・夢の守り人
・虚空の旅人
・神の守り人
・蒼路の旅人
・天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編
・天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国

 この本を読んで 

・このシリーズ、とにかく最初から通読すべきです。途中で読んでは内容が分からない上に、もったいない。

・最終シーンもジーンと感動が残り、「これこそ最終回」な気持ちになりました。満足度の大きいファンタジーです。


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2011

07/12

Tue.

05:53:18

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国 

Category【日本文学


天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)
(2011/05/28)
上橋 菜穂子

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書き出しをご紹介します。

 バルサは、まだ眠っている。バルサは、ほんとうによく眠る。みじかいあいだでも深く眠り、起きるときには、まるで眠りを断ちきるように、さっと目ざめる。
 わたしは、眠れない。このところ、深く眠れたことがない。眠っても、夢ばかりみる。急がねば、一刻も早く、急がねばと、心が急いているからだろう。
 カンバル王を、説得することができるだろうか。その一事に、すべてが懸かっているが、あの王は、どうも苦手だ。サンガルで出会ったとき、理の通った申し入れをしても、即答しなかったような男だから……。
 それに、すでにタルシュ帝国の息が掛かっているとなると、説得するのはむずかしいだろう。あの内通者―タルシュの密偵にとりこまれていた男は、カンバル王の側近のひとりだったはずだ。となれば、なおさら……。
 それにしても、タルシュは、なんと巧妙な手を使うのだろう。
 よく、心しておかねば。ロタの南部領主たちをとりこんでいるのは、ラウル王子ではあく、八ザール王子の手の者だった。その意味を、しっかり考えておかねば。



守り人シリーズ最終章3部作の真ん中。

無事バルサと合流したチャグム王子は、なんとかロタ王国の王に連盟を申し出ます。しかし今や死した身分となっているチャグム王子の申し出では、ロタもなんとも動くことができない。結局嘆願は断られてしまいますが、チャグム王子の前に新しい希望の道が開きます。

バルサは新ヨゴを救うべく、チャグム王子を連れて生まれ故郷のカンバル王国へ出向きます。このカンバル行きには、ロタ王の直属にあるカシャルという猟犬の名を持つ一団の力がありました。カシャルはロタ王家を守る人々で、動物の目に心を載せたり、鷹を使って文の行き来をさせるなどの特殊な能力を保持しています。チャグムとバルサはカンバルでも彼らに何度も助けけられる。

3部作の中で、一番情を感じるお話でした。

【守り人シリーズ 関連記事】
・精霊の守り人
・闇の守り人
・夢の守り人
・虚空の旅人
・神の守り人
・蒼路の旅人
・天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編

 この本を読んで 

・バルサとチャグムの絆が泣ける!


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2011

07/11

Mon.

20:09:42

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 

Category【日本文学


天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)
(2011/05/28)
上橋 菜穂子

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書き出しをご紹介します。
 

 そなたは、わたしが、この道を選んだことを嘆くだろうか。―子どものような心で、叶うはずのない夢を追ってしまったと、嘆くだろうか。だが、シュガ、わたしは、大人であれば、選ばぬであろう、この道を行くことに決めたのだ。
 南の大陸で、わたしは多くのものを見た。タルシュはまこと、大国であった。いくら言葉を尽くしても、その目で見なければ信じられぬほど繁栄をきわめた大国だ。新ヨゴなど、あの国に比べれば虫ケラに過ぎぬ。われらが、総力をあげて刃向かっても、彼らの目には、カマキリが、かぼそき斧を振り上げているようにしか見えぬだろう。
 シュガ、わたしは、たしかに愚かかもしれぬ。わたしが、もっとも恐れているのは、この道を選ぶことで、多くの民を無駄死にさせてしまうのではないか、ということだ。
ラウル王子―あの、傲慢なタルシュ帝国の第二王子が、持ちかけてきたとおりに、わたしは国に帰って、タルシュに降伏し、枝国になる道を、選ぶべきだったのかもしれぬ。そのほうが、死ぬ者は少ないのかもしれぬ。だれが国を治めようが、民が幸せでありさえすれば、それでよい。枝国になることで、民が幸せになると信じられたなら、わたしは自分の矜持など捨てて、ラウル王子に従っただろう。



帰省時に偶然みつけて購入。帰りの飛行機で没頭して読みました。

守り人シリーズの最終章です。天と地の守り人は3部に分かれており、こちらはその第一部でチャグム王子の新ヨゴ皇国の西となりにあるロタ王国での冒険がつづられています。

先回、海へと逃げ出したチャグム王子はロタ王国の王の下へ新ヨゴとの連盟を嘆願しに行きます。南のタルシュ王国がどんどんとその力を北上させる中、北のカンバル、ロタ、新ヨゴの3国はタルシュの力におびえるばかり。新ヨゴにいたっては、外部への情報を遮断させるために鎖国に踏み切ります。

一方新ヨゴではチャグム王はすでに海賊の手に掛けられ世を去ったものとし、すでに葬儀までもが済んだ状態にありました。王子が小さい頃に偶然面倒を見る機会をもったバルサは、王子の行く末を心配します。死んだとは信じられない。

バルサはある者から王子が生存しているとの情報を得、王子を助けるべくロタへ向かいます。しかし王子に出会うまでの道は遠かった。ひと握りの情報を元に王子を追うバルサ。しかしタルシュの一味が恐ろしく手ごわく、常に追ってが迫ってきます。

新ヨゴが救われるのか。ロタは新ヨゴの提案をどう受け入れるのか。北に平和は訪れるのか!
3部作、お楽しみ下さい。


【守り人シリーズ 関連記事】
・精霊の守り人
・闇の守り人
・夢の守り人
・虚空の旅人
・神の守り人
・蒼路の旅人

 この本を読んで 

・上橋先生の本はいつもいつも読んだ瞬間に魅せられ、引き寄せられてしまいます。今回も回りの音が聞こえなくなるほどに集中読書してました。

・チャグムの成長がなんとも頼もしいです。


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2011

06/12

Sun.

09:36:27

商社審査部25時 

Category【日本文学

ご無沙汰しております。ああ、恐ろしく久々に読書しました。


商社審査部25時 (講談社文庫)商社審査部25時 (講談社文庫)
(2005/03/15)
高任 和夫

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書き出しをご紹介します。

 3月29日。木曜日。
 朝9時30分。
 大阪・中之島の畿内商事株式会社審査部に設置してあるテレックスが、毎朝恒例の情報を叩き出す。
 有力興信所からの信用不安情報だ。
 倒産の噂がたっている企業に関する情報で、事の性質上会社名はイニシァルで表示されているものの、読む人が読めばどの会社であるか容易に察しがつく。
 この朝、テレックスが打ち出した警戒情報の数は十六件。
 審査部審査第三課(西日本担当)の小早川は、その七番目の情報をみて軽く舌打ちした。どうやら、畿内商事の取引先であることは間違いなさそうであった。
― Kジツギョウ。ホンテン クレ。シホンキン 八センマンエン。ギョウシュ キカイハンバイ(シュトシテ、デンキキカイ)。ネンショウ (五八ネンジッセキ)三〇オクエンゼンゴ。ジュチュウゲンカラ、シキングリヒッパク―。
 小早川は、テレックスの受信分を破るようにして抜き取り、足早に自分の所属する課に戻った。



テレックス(それもカタカナ表記)だったり、パソコンから拾う情報がなんとも手作業風な感じがあるので調べてみたら、初版は1985年なんですね。もう20年以上も前の商社を舞台にしたお話です。

書き出し部でテレックスを読んでいる小早川は、剣道部で体と精神を鍛えた審査三課の若手ホープ。主人公は審査部第三課課長の千草という非常に頭のキレる男です。40代で、一人息子のお父さん。妻に全く頭があがりません。とはいえ、家族の話が出てくる暇もないほどに、審査第三課は忙しい。オフィスは大阪にありながらも、始終西日本を駆け巡っています。

審査部の仕事は、破綻しそうな取引先による焦げ付きをどうにか小さな被害に収めるべく翻弄する解決屋のような立場です。千草は将棋で、小早川は剣道で精神の落ち着きを持ちながらも、まさにタイトルとおり25時間業務についている。

これが80年代の商社の本来の姿かどうかはわかりませんが、あの当時のサラリーマンが持っていた熱意のようなものが伝わる小説です。

 この本を読んで 

・思えば80年代のサラリーマンって「熱い!」なイメージがありませんか?もちろん今のサラリーマンももちろんとってもがんばっておられますが、バブル前後の熱さには独特なものがあったように思えます。



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2011

03/28

Mon.

22:28:53

こころげそう 

Category【日本文学


こころげそう (光文社時代小説文庫)こころげそう (光文社時代小説文庫)
(2010/08/10)
畠中 恵

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書き出しをご紹介します。

「女の幽霊が出る?長屋にですか?」
 住まいにしている二階長屋の一階、八畳の居間で、宇多は思わず長火鉢の奥に座る長次に聞き直していた。
 宇多に突然、驚くようなことを言った長次は今年四十二、宇多の親代わりにして、両国橋寄りの内神田辺りを縄張りとする岡っ引きだ。今二十二になる宇多は、長次親分の元で、下っ引きをやっていた。
「ついてはその幽霊の噂を、調べなくっちゃならねえ。今ちっと忙しいからな、宇多、お前に頼もうと思うんだが」
 「調べるのはかまわねえんですが。親分、何で幽霊のことなんぞを……」
 怖がりというわけではないが……断じてそんなことはないが、寺や神社の領分に、岡っ引きがなぜ口を挟むのかと不思議に思う。もし当の幽霊が見つかったとして、その先どうすれば良いのだろう。首を傾げる宇多を見て、長次が苦笑を浮かべ、煙管からぽんと煙草の灰を落とした。



「しゃばけシリーズ」でおなじみの畠中恵さんの作品。

今回はもののけや妖が出てくるお話ではありません。なんと幽霊です。幽霊ですから、いつもの妖のような愛嬌やなんとも憎めないかわいらしさがありません。でも恐れをなすような相手ではない。なぜなら、宇多が長いこと好きだった幼馴染が不意に命を落として幽霊になったからであります。

今回事件を解決するのは、下っ引きの宇多。若旦那でも、商いを営んでいるわけでもない、むしろ問題解決の本職(でも下っ引きだから見習いですね)です。それでもやはり時代小説は人情節が「待ってました!」のメインイベントですから、こちらのお話でも情がぎゅーっと詰められています。

ただ、岡っ引きの出てくるお話にしては、ちょっぴり軽いかな?そして著者のほかの作品に比べると笑いの部分が少ないかな?とちょっと異色感もあったりします。それが逆におもしろいところかもしれません。

 この本を読んで 

・いつもより人間の登場人物が多い分、ドラマ化してもおもしろそう。



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2011

03/17

Thu.

21:06:10

ホルモー六景 

Category【日本文学


ホルモー六景 (角川文庫)ホルモー六景 (角川文庫)
(2010/11/25)
万城目 学

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書き出しをご紹介します。


プロローグ

 湯気に煽られ、かつお節が踊るきしめんと、ライス小。
 いつものメニューをトレーにのせ、窓際の席に腰を下ろすと、目の前にはネギトロ丼にヨーグルト、黄金色の大学イモという豪勢極まりないメニューが並んでいた。
「ずいぶんリッチですな、高村くん」
 正面の席に座る色白で小作りな顔をした男は、「祭りですから」とよくわからぬ受け答えとともに、
「大学イモ、一つあげるよ」
 と小鉢を箸の先で示した。
「イモよりも、俺はネギトロ丼のネギトロが欲しい」
「嫌だよ」
 にべもない返事をき寄越して、高村はわさびを溶いた小皿の醤油を几帳面に丼全体にまぶし、「いただきます」と手を合わせた。
「昨日、実家の母親から電話がかかってきた」
「おお、御母堂さまはお元気か?この前、お裾分けしてもらった錦松梅、たいへんおいしゅうございました、とお伝えください」
 お裾分けした覚えなんかない。安部が勝手にダンボールから持っていったんだろ、という棘のある言葉に、そうだったかな?と俺はきしめんをふうふうしてすする。



あの、最初から最後まで大爆笑で読み終えた『鴨川ホルモー』の続編。


鴨川ホルモー (角川文庫)鴨川ホルモー (角川文庫)
(2009/02/25)
万城目 学

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ホルモーとは、京都の大学生のごく少数の人数で繰り広げられている謎の競技の名であります。一般には目に見えない小鬼を、よほど人間の言葉からは遠く離れた小鬼の言葉をたくみに操り、一人100匹の鬼を戦わせるという恐怖の対抗ゲームです。ホルモーは、自分の手持ちの小鬼が全滅した時、どういうわけだか体の奥底から謎の力に引き出されるように「ホルモォォォォォー」と叫んでしまう。叫んでしまうのも随分恥ずかしいのですが、その上身になにかが降りかかるというおまけつき。確かに恐怖の競技です。

『鴨川ホルモー』では、京都大学に通う主人公の安部が、どのような経緯でホルモーに参加し、操るようになるのかが詳しく語られており、こちらの『ホルモー六景』は、ホルモーに関わった人間のホルモー模様が6話納められています。

この本を読んで分かること。それはホルモーは一生モノだということです。一度ホルモーに出会ってしまうと、一生あなたからホルモーは離れない。小鬼は後輩に引き継げても、頭の中からホルモーの不思議は離れないのです。

しかし、よくこんなこと考えるよねーと笑いながらもこうしてホルモーの続きが読みたくなるのは、やはりこれもホルモーの小鬼がなせる業なのでしょうか。うむ。

 この本を読んで 

・前作はホルモーのあまりの異型さに度肝を抜かれっぱなしでしたが、この作品は青春の酸いや甘いが盛り込められており、青春とはこういうものだと一人満足しておりました。

・やはりホルモーみたいなことも有り得そうに見えてくるのが古都京都の魅力ですね。札幌だとこれは絶対にかなわない。



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2011

03/15

Tue.

22:52:15

なんて素敵にジャパネスク 〈8〉 炎上編 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 〈8〉 炎上編 (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 〈8〉 炎上編 (コバルト文庫)
(1999/10/01)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 

いつのまにか、季節はゆっくりと動き、ふっと秋風が立つような夕刻。
 しみじみと庭先を眺めているあたしの耳に、ついさっき、参内から戻ってきた父さまのすすり泣きの声が聞こえてくる。
「ほんとうに、今度という今度は、おまえを見限りましたぞ、瑠璃やっ!」
 そういったまま、ほろほろと涙を流している。
 その涙を、袖で押しぬぐいつつ、
「後宮で発病して、万が一にも大病であっては、高貴なみなさまがたに、おうつしすることになる、と。そう考えて、後宮を抜け出したのは、まだ、よろしい。しかしなぜ、ちゃんと大皇の宮さまにだけでも、お伝えしなかったのか」
 といって、またまた口ごもり、はらはらと泣きだす。
 父さまに寄りそっていた母上が、ぐいと膝をすすめてきた。
「いいえ、ここはやはり、瑠璃さまを褒めてさしあげるべきなのですわ。後宮のみなさまにご迷惑をかけないよう配慮なさったのは、ごりっぱではありませんか。万が一にも、流行病などであっては、申しわけも立たないところでしたわ」
「しかし、そのまま、どこにも連絡をよこさぬbsかりに、この大騒ぎ。わしの立つ瀬がないえではないか」
「そ、それはそうですけれど……」



ジャパネスク、これがとうとう最終巻です。

小娘だった瑠璃姫が、幼馴染の高彬とどうにかこうにか結婚し、新婚生活に突入したかと思えばまた騒ぎ。初恋の人、吉野君にも再会したのはよいけれど、今はまた行方知らずに。最終章では今上の鷹男にそっくりな師の宮から攻撃をうけた瑠璃姫が、ついに師の宮の陰謀の真の理由をあばきます。

吉野君の巻でも涙しましたが、この最終章も負けないほどに涙を誘うお話でありました。高彬の妹、由良姫の気丈な様子もたのもしいのですが、最後の最後には彼女の心意気に涙!煌姫の超リアリストっぷりは変わりませんが、今であ頼りになる瑠璃姫の片棒です。

私がこのシリーズを始めて読んだのは、確か高校生とか大学生とかの頃と思いますが、読後に氷室冴子先生の本を図書館で探し回った記憶があります。ああ、また読みたいなー。氷室先生の本の中では、私はこのジャパネスクシリーズが一番好きかもしれません。

それにしても瑠璃姫。もっといろんなエピソードが読みたかったなぁ。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・学生当時、ジャパネスクを読んでわかったことは、今まで「歴史」としてみていた時代劇なり時代小説が、むしろファンタジーに近いんじゃない?ということでした。学生の私には、これはちょっとした発見に思えたものですが、今となってはその気づきこそがその後歴史を楽しめるようになったキッカケだったのではと思います。

・それにしても、もう30年ちかく前のお話ですよ。それが今でもこんなに面白いなんて。やはり氷室先生は偉大な小説家です。


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2011

03/11

Fri.

10:45:10

なんて素敵にジャパネスク 〈7〉 逆襲編 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 〈7〉 逆襲編 (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 〈7〉 逆襲編 (コバルト文庫)
(1999/10/10)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 

ふっと気がついたとき、あたしは宙に浮いていた。あたりは、一面の暗闇だった。
 やがて、どんどん地の底に落ちてゆくような、スーッと肌ざむい感じがして、ハッとして意識をとりもどした、そのとき。
 目のまえには、暗闇にぬらぬらと光る水が―つまり川面があったのだ!
「うそでしょーっ!」
 叫び声があたりに響きわたり、それはまぎれもなく、あたしの声だった。叫んだ一瞬後には、全身がなにか固いものに叩きつけられたようだった。
(ざっぱーん)
 という、まるで庭石が池に落ちたような、すさまじい音が、耳元でとび散った。
 その瞬間は、なにがなんだか、ボーゼンの境地だった。
 そりゃ、そうでしょう。
 気がついたら、川に落ちる寸前で、われに返った一瞬後には、川に頭から突っ込んでいたなんて、長い人生でも、めったにない経験ではあった。



先回で、瑠璃姫は師の宮の陰謀でさらわれてしまいます。牛車でさらわれたはずだったのに、気づいたら川に放られていた!わんぱく、おてんば、無鉄砲そのままの瑠璃姫もビックリな展開です。

ここでどうでもよい話なんですが、あの当時の女性が貴族衣装のまま川に飛び込んだら、生き残る確率は非常に低かったのではないでしょうか。布を何枚も重ね着している上に、腰より長い髪ですよ。水を含んで相当重いに違いない。さすがに瑠璃姫はその辺のことがしっかりとわかっていて、川に流されながらも重い衣装をそぎ落としていきます。

7巻目はあともう少しで最終章ということもあり、大きな展開のある場です。師の宮の陰謀にはいったいどんな展開が待っているのかハラハラして読んでいる間に、すぐに「つづく」の文字が出てきます。200ページもない作品ですので、本当にあっという間です。

この作品で一番感動的なのは煌姫と瑠璃姫の一風変わった友情ではないでしょうか。超リアリストな煌姫だけに、瑠璃姫を思う気持ちも独特なのですが、それでも他人を思いやる気持ちや友情はかけがえのないものです。

ところで、瑠璃姫は後宮に忍び込み、女御さまのために夜中こっそり宮を抜け出しまして、そのまま川へどぼんと落ちてしまいます。その後の後宮も瑠璃姫失踪にて大騒ぎ。最終章が楽しみ。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・ストーリーがおもしろいからこそ、なおさらなんですが、ジャパネスクシリーズは本当にあっという間に読み終えてしまい、次!次!と続きが読みたくなってしまいます。

・その点、マンガ版はどんな感じなんでしょうか。私は文字を読みながら妄想するほうが楽しめるタイプですので、はらはらが最高潮になって「つづく」な感じがこれまたたまりません。



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2011

03/10

Thu.

22:43:41

バガージマヌパナス―わが島のはなし 

Category【日本文学


バガージマヌパナス―わが島のはなし (文春文庫)バガージマヌパナス―わが島のはなし (文春文庫)
(1998/12)
池上 永一

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書き出しをご紹介します。

 

暖かな風は、はるか南西から吹いてくる。耳を澄ませば三線の音がきこえた。どこで何が起ころうと、この島の美しさはかわらない。そこに島人たちが住んでいるかぎり。

 白い砂の道沿いにある、石垣の上の大きなガジュマルの樹の木陰で、もう三十分も彼女は座り続けている。
 島に絶えず吹く潮の香りをたっぷりと含んだ海風に、彼女は豊かな髪を靡かせている。赤く小さなかたちのよい唇から、奥歯をのぞかせて、ポカンと口を開けていた。さっきからずっと、深く青い空を眺めている。彼女は目を細めた。
 紺色で産みとつながった空に雲が欲しかった。彼女はポケットから煙草を取り出して、フウと煙の糸を空に預けた。しかし彼女がどれほど多くの煙をつくろうと、はかない白雲が海の色より濃いこの島の空を薄めることなどできはしなかった。
 彼女はもう一本の煙草を取り出すと、あきらめたように肺を黒く染めはじめた。ジリリと煙草の炎が大きな呼吸にあわせて赤く萌え、白煙となって彼女の喉を通っていった。照りつける真夏の太陽が、籠を頭の上に載せて荷物を運ぶ島のオバァたちの足を、ゆらゆらと陽炎のように揺らした。そんな彼女たちを太陽がますます強い光で射し、大地に黒い影を焦げつかせる。



沖縄を舞台にした、池上永一さんの作品。
『風車祭』を読み、沖縄独特の文化世界に魅了されてしまいました。

『風車祭』同様、この作品でも沖縄のオバァが登場し、マブイだのユタだの、人の世界とは異なるいわゆるあの世との行き来も登場します。

主人公の綾乃はごく普通とは決して言えない女子高生。学校が嫌いだし、どちらかというと世の中のきまりごとに全力でもって対抗するような娘です。学校に行かない、というかなじめないから、友達も殆どいない。親友はなんと86歳で近所に住むオバァ一人。相当な年齢差でありながらも、なぜか微妙なバランスで友情を築いている二人の姿には清々しささえ感じられます。できれば私も年の離れた友達が欲しいわ、と思いたくなるような世界です。

綾乃が人と仲良くなれないのは、おそらく小さい時から「見えてしまう」体質だったからでしょう。予知能力のようなものを持っていた綾乃ですが、大人になるにつれて意思の力でその怖い予言を見ないようにしていました。ところがある日、夢の中で「ユタ(巫女)になれ」と言われる。これは一種のお告げで、断ることなんてできないんだそうです。なのに綾乃は断った!ワジワジーッ(不愉快だわ)と、これまた全身で断った。すると神の予言を逆らうわけですから、当然綾乃の身に不運が訪れます。

ところで、沖縄の島々にはそれぞれに巫女がおり、聖地にて祈りを捧げているんだそうです。聖地を守る巫女もいれば、地域の祠や地域の先祖に祈りを捧げる巫女もいる。綾乃はこの地域を見るユタ(巫女)になれといわれているのですが、ユタも勢力があるんでしょうね。新入りの存在を心よく思わないユタもいたりで、やっぱりワジワジーッ生活が待っています。

沖縄の異文化世界を垣間見ているだけでも、その豊かな空気に触れたような気になりました。そして人と魂の触れ合に涙しつつ、海と山に囲まれながら穏やかに暮らしていきたいなーと、しばしぼんやりと考えこんでしまうことも。

ファンタジーノベル大賞受賞作だけあり、心がファンタジーの世界(この場合は沖縄ですね)に飛んで行きそうになりました。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・NHKの「ちゅらさん」が大人気だった頃から考えてみると、人々が沖縄の話を求める理由は、その人情にあるのではないかと思います。人は寂しいのが嫌いなのかもしれません、芯のところでは。個人主義の快適さ満喫しながらも、人と繋がっていたい気持ちがどこかにあるのかも。だからこそ、家族全体、ご近所一帯でお付き合いをしているような沖縄の生活に癒しを感じるのかもしれませんね。

・綾乃みたいな子がまわりにいたら、本当にビックリ以外の何ものでもありません。ただ、純粋ゆえ、周りに合わせられないんだろうな。適当に周囲に溶け込むことがよいのかしら?と逆に考えてしまったほどえす。

・とにかく、沖縄の自然に溢れる情景が目に浮かぶ作品でした。石垣島、行ってみたいなぁ。


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2011

03/08

Tue.

22:07:20

―新装版― なんて素敵にジャパネスク(6) 後宮編 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 6 〈後宮編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(8) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 6 〈後宮編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(8) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)
(1999/07/23)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

「姫さま、瑠璃姫さま。たいへんですわ」
 渡殿のあたりから、小萩のうわずり声がひびいてくる。
 ばたばたと足音もすさまじく、よほど、あわてているらしい。
 脇息によりかかっていたあたしは、内心、きたな、と覚悟をきめた。
 ちょうど、朝餉を食べおわった巳の刻(午前十時)すぎ。
 上げわたした格子からは、朝のひざしが、ゆったりと入りこんでくる。
 まだまだ秋の気配は感じられないけれど、さすがに、おだやかあ朝のはじまりではあった。
「姫さま、申しあげますわ」
 小萩が息をきらしながら現れて、簀子縁に手をついた。
 あたしはおっとりと、脇息から身をおこす。
「朝っぱらから、なにを騒いでいるのよ。うるわいわねえ」
「申しわけありません、姫さま。でも、煌姫さまがなにやら、半狂乱でいらして……」
「あの煌姫が、半狂乱?」
「はい」



ジャパネスクシリーズ6冊目。長編の4冊目になります。

瑠璃姫、前作では師の宮にまんまとしてやられます。顔が今上である鷹男の帝と似ているせいか、苛立ちもつのるばかり。今度は煌姫と画策を練り、新たな道を選びます。

瑠璃姫が選んだのは、どうにかして後宮に忍び込もう!というものでした。1作目にて藤宮さま、鷹男の帝、大皇など、宮さまたちとの縁を持つ瑠璃姫。敵である師の宮も宮家の人間です。これは敵の陣地に入り込むしかありません。

大皇さまの計らいで、瑠璃姫どうにか後宮に入り込みますが、やっぱりそこは瑠璃姫です。高彬のいるまでで失態を冒してしまいます。顔から血の気の引く、高彬。しかし瑠璃姫は、それでもどんどんと宮廷でのトラブルに身を投じていくのでした。

ところがそれが思いもがけない展開に発展します。命の危険を感じる瑠璃姫!師の宮とはただものではありません。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・長編シリーズになってから、平安貴族の生活や位などがほんのりわかるようになってきました。きっとあの時代にも、今風なトラブルがたくさんあったんだろうなぁ。

・宮家の複雑さはなんといっても血縁の多さですね。なんどか読み返してしまいました。


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2011

03/07

Mon.

23:00:40

つくもがみ貸します 

Category【日本文学


つくもがみ貸します (角川文庫)つくもがみ貸します (角川文庫)
(2010/06/23)
畠中 恵

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書き出しをご紹介します。

 

ちょいとお前さん、お前さんのことだよ。
 どっちを向いているのさ。ああ、あちこち見ても、私は目に入らないよ。今、風呂敷に包まれて小さな荷となって、人の背に負われているからね。姿が見えないのさ。
 おや、荷とは何だ、私は誰かと問うのかい。そうさね、この身は古い古い根付け、蝙蝠の形をしている、野鉄という者なのさ。大層立派な一品で、手に入れた御仁らに、長年それは大事にされてきたんだよ。だからね、私は成れたんだよ。
『付喪神』に。
 生まれて百年を経ると、器物の中には付喪神になるものがいるのさ。ただの物であったのが、大出世することになるのさね。
 妖と化して力を得てゆくんだ。言葉を口にするし、人の言うことも分かる。何しろ妖となったんだからねえ。



しゃばけシリーズの畠中恵さんの作品です。

今回は姉弟(とはいえ、血筋のない親戚どうし)が営む江戸は深川にある「出雲屋」が舞台。出雲屋は古道具を貸し出す損料屋を営んでいます。今で言うところの、何でも屋みたいなものです。

出雲屋が他の損料屋と異なるのは、貸し出す品々の中に付喪神がある、ということ。付喪神とは、上の書き出し部にもありますが、長い間大切にされてきた品物に魂が宿ってしまったものです。

出雲屋の付喪神たちは、それなりにプライドが高かった!家の主人である清次とお紅にはけっして自ら口をきくことはありません。それが付喪神なりのルールでした。下等な人間とは話さない!ところが、彼らはとてもお喋り好きで、姉弟がその場にいても、一向におしゃべりを止めようとはしない。むしろ、貸し出された先でのおもしろ話をここぞとばかりに語って聞かせます。

清次たちは、付喪神の絶え間なく続くおしゃべりから、街の情報を仕入れ、問題解決に努めます。時には付喪神の力を利用して、わざと彼らを貸し出すことも。

畠中さんの本を読んでいると、江戸の世にはたくさんの妖がいて、日々に彩りを与えていたように思えてきます。小さい頃はお化けの話なんて怖くてたまらなかったけど、本当は愛嬌たっぷりの存在なのかもしれませんね。


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・しゃばけシリーズのような派手さはありませんが、いつもどおりの人情はたっぷり注がれた作品です。これ、英訳してもおもしろいかも。イギリスあたりなどでは、喜ばれそうな気がします。

・古いものが今でも残っている日本だからこその発想だなぁと思いました。物に魂が宿るというのは、日本ならではの考えかたなのかしら?他国でもこういうのはあるのかしら?と興味が外へ広がります。




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2011

03/03

Thu.

20:54:52

―新装版― なんて素敵にジャパネスク(5) 陰謀編 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 5 〈陰謀編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(7) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 5 〈陰謀編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(7) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)
(1999/07/23)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 ころは七月に入ったばかり。
 暦のうえでは、はや初秋である。
 とはいえ、まだまだ残暑はきびしく、庭先の木々もしろじろと乾いている。
 庭をめぐる遣水が陽ざしを反射して、きらきらと光り、まるで真夏だと錯覚しそうな昼下がり。
 庭の夏草の繁みのむこうから、ざわざわと騒がしいもの音がする。
 耳をすませると、雑色らが、大声手どなりあっていて、
「おーい、女房どのたちの筵道(道にしくジュウタンみたいなもの)は、どこだァ?」
「倉から、ひと巻き、ださにゃなるまい。なにせ、大勢さんだからなあ。お邸のひっこしみたいなもんだ、はははは」
 という声も、すっかり、はしゃいでいる。
 あたしは脇息にもたれかかり、ふかいふかいタメ息をついた。
 ああ、頭痛がする。
 この世には神も仏もないのか!という心境よ。



ジャパネスクシリーズ5冊目です。長編の3冊目になります。

瑠璃姫がどうして脇息によりかかりため息をついているのかと言いますと、3冊目、4冊目に引き続き、夫・高彬の乳兄弟である守弥と、お預かり中の落ちぶれ宮家の煌姫と共に、これから師の宮を捕まえるための準備を行っているからです。おてんば瑠璃姫がこれからのことを考えればわくわくしそうなものですが、守弥の計画はとんでもないものでした。師の宮をおびき寄せるためには、新三条邸を空っぽにしなくてはならない。それには、母上に外出していただかなくてはならない。そこで守弥が瑠璃姫に耳打ちしたのは、奈良にある古寺参りでした。

母上にその古寺の話をした瑠璃姫。効果覿面で、早速母上は旅の準備に差し掛かる。さらには父上までもを連れて行くと言って、都でも話題に上るほどの大旅団となっていきます。なぜにそれほど母上が古寺参りに嬉々としたかといいますと、その古寺、子宝が授かるとして霊験ゆたかなお寺なのでした。

ところが、いつもどこか抜けている守弥のたてた計画です。師の宮はやってくるも、作戦通りにことは運びません。それどころか、瑠璃姫は策略に陥れられた形となります。去り際、師の宮はあざが残るほど強く、瑠璃姫の腹部を殴って逃走。倒れそうになりながらも、煌姫に助けを求めた瑠璃姫は復讐への野心を燃やします。

それにしても師の宮!女の腹を殴るとはなんたる男!
宮家の人々はみんなお上品かと思いきや、この作品に出て来る人々はなんとも過激であります。そのギャップが面白いんですよね。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・おもしろくなってきました!師の宮、いったい何者なんでしょう。

・煌姫にどんどん親近感が湧いてきます。このキャラ、おもしろいわ。


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2011

03/02

Wed.

11:39:40

美女と竹林 

Category【日本文学


美女と竹林 (光文社文庫)美女と竹林 (光文社文庫)
(2010/12/09)
森見 登美彦

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書き出しをご紹介します。

「登美彦氏は如何にして竹林の賢人となりしか」
 
 森見登美彦氏とは、いったい何者か。
 この広い世の中、知らない人の方が多いに決まっている。
 したがって、筆者はまずかれを紹介することから始め、遺憾なことに「この人を見よ!」と言わねばならない。さらに遺憾なことに、「見たところで、あんまりトクにはならんよ!」とも言わねばならない。
 森見登美彦氏は、今を去ること三年前、大学院在学中に一篇のヘンテコ小説を書いて、ぬけぬけと出版界にもぐりこんだ人物である。一世を風靡するかに思われたが、風靡せんかった。
「在学中にデビュー」という言葉には魔力がある。「そんな人物は天才肌で、すばらしい才華の持ち主に違いない」と思う人もあるかもしれない。あえて訂正しない方が登美彦氏には好都合なのだが、筆者は肝心なところをごまかすわけにはいかんと信じるものである。


 
みなさま、ご無沙汰しておりました。お元気でいらっしゃいますか?ソウルの寒さも随分和らぎ、開かずの間となっていたパソコンルームもオンドル暖房で快適度を保てるようになりました。ゆえ、読書ブログ、再開です!

というより、この本を読んでいたら、むくむくと「この本、ブログに書きたい。」と思ってしまったのが、再開の一番の理由かもしれません。まあ、寒さも手強い敵ではありましたが、楽しい読書生活があってこその読書ブログ。自室で、地下鉄内で、昼休みのオフィスで、どうにも含み笑いをかみ殺せず、周囲から「あいつは一体何を読んでいるのだ」な視線をひしひし浴びながら読み上げました。笑える読書って、いいですね。本当に楽しかった!

上の書き出し部にもありますように、この本の主人公は森見登美彦氏、すなわち著者ご自身であります。登美彦氏は無類の竹林好き。大学院でも竹を研究し、心のオアシスとして竹林を愛しむ青年小説家です。ある日、同僚の鍵屋さんファミリーが所有する竹林の整備を申し出たところから話は大きくなります。

そもそも登美彦氏は竹を愛でるあまりに、竹が世を活性化させる妄想を抱いています。MBC(森見 バンブー カンパニー)が竹の時代を作っていく!とにかくその妄想レベルが笑えてなりません。

そして刈る、刈るいいながらもなかなか竹林にすら行けない登美彦氏。書籍名やイベントの話などがちらほら登場し、リアルな登美彦氏の生活が見え隠れしそうな気配がありますが、本当に竹を刈ったのかしら。やっぱりそれも妄想なのかしら、とつい思ってしまいますが、本当のところはどうなのかしら。旧友の明石氏や出版社のみなさんなど、これまた味のあるキャラクターが加わり、竹林の「しーん」としたイメージからかけ離れた新喜劇風な様子も笑いを誘います。

今回のソウルの冬、あまりに寒すぎたもんですから(マイナス20度近かったんですよ、ほんとうに!)、ついついロシア文学なんかを読んだりしちゃいまして、白夜なみの暗い世界にどっぷり浸っておりました。そんな中での登美彦氏の竹林を巡る妄想世界は、まるで春の日差しのような笑いを届けてくれたように思います。いや、本当に久々に小説で笑いました。

ところで、美女については本書をお読み下さい。ああ、これまたーなオチで笑えます。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・森見登美彦さんの本、文庫になっているものは殆ど読んでいますが、この本を読みながら「ああ、あの本を書きながら竹林を刈ってたのね(妄想じゃないなら)」と、つい他の本も再読してしまいました。

・北海道育ちに私には竹林ってどんなものなのか、あまり想像が付きません。そういえば前に慶州(きょんじゅ)で竹林を見たような記憶が・・・

・文庫版にはその後の話が追加されています。登美彦氏、今は東京にお住まいなんですねー。

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2011

01/13

Thu.

22:46:20

―新装版― なんて素敵にジャパネスク (4) 不倫編 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 4 〈不倫編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(6) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 4 〈不倫編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(6) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)
(1999/06/03)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 夏の夕刻。
 青いうすずみを流したように、少しずつ、夏の夕闇が、部屋のなかに入りこんでくる。
 そろそろ、明かりをもってこさせる時刻だった。
 とはいえ、今は、明かりどころの話ではない。
 あたしは脇息をおしやり、手にした扇をひらいたり閉じたりしつつ、
「うーむ……」
と、唸るばかりだった。
「あのう、姫さま」
そばに控えていた小萩が、ついと身を寄せてきた。
「ここはひとつ、早苗から、くわしいことを聞きだしたほうが、よろしいですわ」
「そう、ねえ……」
 あたしは、ちらりと、早苗のほうを見た。
 部屋のすみのほうに、早苗と鈴鹿、ふたりの新参女房が控えている。
 年若い早苗のほうが、心配そうに、上目づかいに、こちらを窺っている。
 ほんとうに、どうしたものだろう。



今日もジャパネスクです。続きをオーダーしていないので、忘れないうちにUPしておきたいと連投でございます。

さて、長編の2冊目です。

3巻では、吉野君を逃がした瑠璃姫が、怪我の治療に吉野に出向いた話が出てきます。そこで崖から落ちて記憶をなくした男を助けるのですが、それがなんと高彬の乳兄弟の守弥であったことが発覚。高彬が熱を出し、こっそり右大臣家のお屋敷に忍び込んだ瑠璃姫はばったり峯男、いえ守弥に出くわします。

その日風邪の高彬を見舞ったのは瑠璃姫だけではありませんでした。ちょうど末姫の婿探しをと大きな宴が開かれていた折だったこともあり、友人達が高彬の枕元までやってきたのですが、その中の一人と温厚な高彬とが口論になったというではありませんか。相手は瑠璃姫につねづね恋文を送ってきた鷹尾の帝が東宮から帝になられた時に新しく政治の場に姿を現した師の宮。

今師の宮は、先々帝のこどもで藤宮とは兄弟筋になります。姫皇子たちは後宮に残ることができましたが、男皇子であった今師の宮は、遠縁の宮筋の家で育つことになりました。本当の名は遠野宮康雄。

高彬との口論の理由は、今師の宮が異様に瑠璃姫をほめたことにありました。今まで物の怪だの、なんだのと、悪名高い瑠璃でしたが、はじめて人から褒められた!高彬はその言葉に危険を感じ、ついカーッとなってしまったのでありました。

人妻キラーかもしれない、今師の宮。高彬の敵かもしれぬこの男を、瑠璃はなんとか捕らえようと守弥や小萩を引き入れて作戦を練ります。

書き出し部で新参女房の早苗が叱られているのは、文をやりとりする男性が発覚したから。そろそろ二十歳の小萩には未だ恋人がおりません。ジェラシーと新入りの教育ということでキリキリしているんですね。女性ならではの関係も見所です。

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・このあたりから、長編の兆しが現れてきます。

・煌姫のキャラが最高です。平安調のお話にすると、鼻につくところが若干弱まりますね。いつの時代にもこういういけ好かない女がいるんだろうなーとしみじみ思いました。



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2011

01/12

Wed.

14:54:51

―新装版― なんて素敵にジャパネスク (3) 人妻編 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 3 〈人妻編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(5) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 3 〈人妻編〉―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(5) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)
(1999/06/03)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 しとしとと、雨がふっている。
 毎年のこととはいいながら、五月に入ってから、ずっと長雨が続いていて、さすがに気分は鬱々としてしまう。
 今は、申の刻(午後四時)くらいかしら。
 申の刻といっても、外はどんよりと曇っていて、うす暗い。
 部屋のなかもジメジメして、髪の毛が湿気をすって、もったりしている。
 なにをする気にもなれずに、あたしは脇息によりかかって、つれづれに庭を眺めていた。
 雨のせいで、庭の木々の緑が、きれいだなあ。
 あたしの人生のなかで、こんなふうにしみじみと、庭の木々や、雨の音を聴くことって、そんなになかったんじゃないかしら。
 たった十八年しか生きていないけれど、ほんと、疾風怒涛の人生だったもんねえ……。
 独身時代にはいろいろあったけれど、結局、瑠璃姫もこうやって、夫の訪れを待ちながら、お屋敷の奥でひそやかに、花の色はうつりにけりな、いたづらに、かな。



ジャパネスクシリーズ、3冊目です。ついに瑠璃姫が人妻に!ということで、副題が人妻編になっています。

2巻目では、二の姫が寺で出会った美しい僧侶が、三条の大納言邸(瑠璃姫の家)を焼いた超本人であること。そしてその僧があの初恋の人、吉野君であったこと。そして吉野君の父君が実は先帝(鷹男の帝の父)であったことなど、驚くべき事実が知らされます。吉野君は後宮で高彬に刃を向けられ逮捕されるのですが、瑠璃は大皇の宮(鷹男の帝の母君)や先帝に謁見し、吉野君の真実を告げ彼を逃がそうと翻弄。瑠璃の着物を羽織り逃げたはずの吉野君ですが、とうとう二度とは会えませんでした。

吉野君を逃がすべく馬に乗っておとりとなった瑠璃姫は、その時に大怪我を負い、療養のために懐かしの吉野を訪れています。そこで崖から落ちて記憶をなくした男を救い、峯男となずけて世話をします。ところがある日、峯男は突然いなくなる。

京に戻った瑠璃姫が人妻気分で盛り上がっているところへ、高彬から宮姫を一人預かって欲しいとの話を受けます。よくよく聞いてみると、高彬の実家である右大臣家では、物の怪つきと噂の瑠璃姫を良く思っていない。とくに母君と高彬の乳兄弟で右大臣家の裏事情を握っている守弥の怒りは激しいところなんだとか。その守弥には身分違いの恋人がおり、その恋人こそが預りの姫だというのです。その煌姫、零落した宮姫さまで、高慢でなにかと瑠璃姫につっかかってきます。

瑠璃姫の新婚生活、身辺穏やかではありません!

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・ここから長いシリーズものに入ります。その第一篇目です。


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2011

01/11

Tue.

21:54:28

―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(2) 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク 2 ―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(2) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク 2 ―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(2) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)
(1999/04/01)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 七月に入ったばかりの昼さがり―
 暦のうえでは秋である。
 秋ではあるけれど、まだまだ残暑が厳しくて、どうかするとカッと日が照りつけ、辺りを白く光らせて、夏より暑い。
 ただでさえ、ここのところ気が鬱々として楽しまないというのに、天気までこうでは、うっとうしくてやりきれない。
 鴨川にでも飛び込みたい心境だわ。
 それとも、いっそ尼寺に駆け込んで、あてつけに出家でもしてやろうか。
「ねえ、小萩」
 部屋の隅に控えているあたし付きの女房(侍女)、小萩に声をかけてみる。
「はあ。なんでございます。瑠璃さま」
 小萩の声も元気がない。
 消え入るような声で、そのくせ妙にぴりぴりした感じである。
「あたしが尼寺に行くとしたら、おまえもついてきてくれる?」
「尼寺でございますか。そればっかりは……」
 もごもごと口ごもったかと思うと、ふーっとため息をついた。



1冊目で、悪党を退治した瑠璃姫。もともとは東宮(皇太子)のおばにあたる藤宮さまの屋敷近くをウロウロしていた弟融が道で斬りつけられ、その調査に乗りだした瑠璃姫が藤宮さまと出会うことから始まりました。実は悪党が東宮のお命を狙っていることを知った瑠璃姫は、鷹男という藤宮さまの身内のものと手を組み、悪党の本拠地へ単身乗り込みます。実はその鷹男こそが、東宮様ご本人だった!というオチの1巻目。

結局、いろいろな邪魔が入り高彬との初夜を遂げられていない瑠璃姫は、いくら周囲に「結婚します!」と宣言していても、周りからはまだまだ認められていない存在です。悪党退治で瑠璃姫に想いを寄せるようになった東宮は、日々瑠璃姫に御文を送り、わが手に来ぬかとアピール中。瑠璃姫の恋人高彬は、東宮のもとで働く男ゆえ、東宮を天とあがめています。瑠璃へ東宮からの恋文が届いていることを知った高彬は身を引こうとすっかり弱気になっています。

それに怒った瑠璃姫!知り合いの尼寺へ駆け込むのですが、そこには先客がおりました。それは1巻で高彬との縁談があり、都きっての美人と評判の兵部卿宮家の二の姫でした。夢枕で瑠璃姫の名を読んでいた二の姫。尼寺のものはみな、それゆえに瑠璃姫が登場したのだと思っていたのですが、実の瑠璃姫は高彬へ男らしく愛を貫けと!ご立腹兼当てつけの出家を画策していたところ。親しくしていたはずの二の姫は、なんと瑠璃姫が憎いと言っている。本書では、尼寺での二の姫の話を追求すべく、またもや瑠璃姫はお忍びで京の街を牛車で駆け巡ります。

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・驚きの展開!私はこのシリーズの中で2巻が一番好きです。

・そして泣けるのも2巻かな。
 

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2011

01/10

Mon.

10:57:54

―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(1) 

Category【日本文学


なんて素敵にジャパネスク ―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(1) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)なんて素敵にジャパネスク ―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(1) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫)
(1999/04/01)
氷室 冴子

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書き出しをご紹介します。

 冬だ。
 人生の冬よ、まったく。
 裳着(女の子の成人式。十二~十四歳ぐらいの間に行われる)を終えた十三歳ぐらいのころから、やれ中納言家の若君がどうしただの、式部丞どのは年かさだがしっかりしたかただのと妙にきなくさい話がとびかっていたけれど、それが十四、五になるに従って、はっきり『結婚』の二文字が浮かび上がってきた。
 そして十六歳になった今日日、ばあややとうさまが入れ替わり立ち替わりやって来て、
「女子の幸せは、よき殿方を通わしてこそです。せっかく降るようにくる文を、どうして見ようともしないんですか」
 なんぞと説教する(平安時代、夫は妻のもとに通う通い婚が普通でありました。つまり、これは平安時代、光源氏みたいなのがぞろぞろ生きていた時代のお話であります)。
 そのたびに、あたしは、
「結婚する気はありませんからね。生涯、独身ですごすわよっ」
 と応戦するのだけれど、ばあやや女房(侍女)たちは、生涯結婚しないだなんて、からだのどこかに人に言えない欠陥があるのじゃないかという冷たい目で見るし、とうさまは、年ごろの娘に婿がいないなど恥ずかしくて世間に顔向けできないと泣き真似するし、やりきれない。
 最近では毎日、とうさまと大喧嘩している。



懐かしのコバルト文庫!氷室冴子さんの「なんて素敵にジャパネスク」です。この作品はマンガにもなっているそうですが、私は氷室先生の文章が大好き。やっぱり小説で読み返そうと購入しました。

表紙にもなっている主人公の瑠璃姫は大納言家の姫君。身分はとっても高い。瑠璃姫は幼い頃に母君を失くしおり、それを寂しがった祖母のもとで幼少時代を過ごします。京の都から離れ、祖母の暮らす吉野の里は自然に溢れる素晴らしいところ。そこで出会った男の子、通称吉野君は、母君の身分が低かったことから落胤なさったさる後期な方の息子さんです。瑠璃はその吉野君を初恋の人として16歳になる今も忘れず、一生独身を誓うほど大切な人として胸に抱いています。

吉野君がなぜ通称かと言いますと、高貴な父君の身分に遠慮してのこと。元気いっぱいの瑠璃姫とは対照的に、吉野君は幾分からだが弱かった。真っ白な肌で、とても美しい顔立ちだった吉野君。ある日瑠璃姫が吉野君のもとを訪れると、預りの僧や母君が目を真っ赤にして泣いており「旅立ってしまった」と告げられます。

吉野君の死を知りつつも瑠璃姫は今でも吉野君への想いを枯らそうとはしません。弟の融や融の友人の高彬は、いつも吉野君の話でもうこりごり。年頃になっても嫁に行かず、おてんばな姉を放置しています。

ところが、父君がこっそり権少将とのお見合いを仕組んできました。それを回避しようとその場にいた高彬と「ぶっちぎりの仲よ!」と叫んでしまったことから、二人の恋愛が本格的なものへ進み始めます。高彬も右大臣家の息子ということで、身分的にもピッタリ!さらに吉野君の死後、涙で日々をおくる瑠璃姫をなぐさめたのも高彬でした。この時の「ずっと守る」という言葉を忘れなかった高彬は以前から瑠璃姫一筋だったんですね。

平安時代は通い婚。結婚も男の人が通ってきて、初夜を迎えて晴れて周囲から認められるものだったようです。ところが瑠璃と高彬の結婚は何度も何度も邪魔が入り、なかなか成就しないんですねー。これがまた面白い。

学生時代に何度も読んだ小説で、ストーリーも頭に入っているにも関わらず夢中で読んでしまいました。平安時代の手引きとしてもどうぞ。

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・元気いっぱいな瑠璃姫の言葉にこちらも元気づいてきます。ジャンルでいうとラブコメディーなのかな?

・そういえば、ドラマ化されましてよね。瑠璃姫が富田靖子さんで、高彬が横山やすしさんの息子さんで、融が西川きよしさんの息子さんだったのは覚えてる!

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2011

01/04

Tue.

15:22:00

いっちばん 

Category【日本文学


いっちばん (新潮文庫)いっちばん (新潮文庫)
(2010/11)
畠中 恵

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書き出しをご紹介します。

 お江戸の空は朝から一面の青で、暖かな日とあんっていた。振り売りの声がゆったりと、風に乗り通りを渡ってゆく。
 だが廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の離れでは、通町界隈を縄張りとする岡っ引き、日限の親分と若だんなが、難しい顔をして首を傾げていた。縁側の外に脱いである下駄の脇では、親分と共に入ってきた茶色の犬が、やはり首を傾げている。
 茶と菓子を運んできた手代の仁吉は、そんな二人と一匹の様子を見て、さっと眉を顰めた。
「どうしました若だんな。もしかして、また熱が出たんですか。それどころか、心の臓が苦しいとか?直ぐに布団を敷きましょう」
 若だんなの兄やである仁吉は、それは涼やかな目元の若者であった。だが、付け文もおなごからの誘いも放ったまま、ひたすら体の弱い若だんなのことを心配すること、尋常ではない。
 今日も、目の前でのんびり考え事をしていた若だんなが、ちょいと眉を顰めた途端、死にはしないかと真剣に案じ、顔を覗き込んできた。そんな仁吉を心配させたままでいると、じきに恐ろしい味の薬湯が、目の前に現れたりする。よって若だんなは、急いで首を振った。



年末届いた荷物の中から、真っ先に手に取った一冊。

しゃばけシリーズもこれで文庫化7冊目です。若だんなは相変わらず弱りっぱなしで弱りっぷりにも磨きがかかってますが、妖とともに日々どうにか生き延びている。特に本作は今までに比べ大きな事件の解決に若だんなが一肌脱いだと言うよりは、病弱ぶりのほうが表に出ている感じです。

今回のお話の中では、親友であんこを上手に作れない菓子処長男の栄吉が、ついに本格的に菓子を作れるようにと修行に出た先で起きるトラブルが痛快です。相変わらず栄吉の作るあんこは人気がありませんが、菓子を作るという情熱だけはがっしり伝わってきます。

他に若だんなが天狗に誘拐されたり、大阪から来た商売がたきに長崎屋が勝負を持ち込まれたり、白壁なみに顔を塗りたくっていたお雛ちゃんの家業を助けたりと布団の内外で若だんな大活躍です。

それにしても若だんな。そろそろ縁談があってもおかしくない年齢ですね。単行本は他2冊先行してますので、これからが益々楽しみです。

以前に出てきた登場人物がふと現れます。またそうじゃなくても面白いシリーズですので、『しゃばけ』から読み始めることをおススメ。

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・屏風のぞきが好きな私。妖たちの様子には江戸を想像させる人情が滲み溢れているように思います。

・巻末に高橋留美子さんとの対談が掲載されています。

・海外のまったく日本と縁のないような環境でこの本を読んでいると、あっという間に妄想の世界に入ってしまいます。着物に下駄で町を行きかう町人たちが目に浮かぶようです。



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2010

12/29

Wed.

06:32:19

わたしが棄てた女 

Category【日本文学


わたしが棄てた女 (講談社文庫 え 1-4)わたしが棄てた女 (講談社文庫 え 1-4)
(1972/12/15)
遠藤 周作

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ぼくの手記(一)

 男やもめに蛆がわく……
 むかしから言われてきた言葉だが、慎みぶかい読者姉妹はまさか、若い青年二人の下宿を、のぞかれたことはありますまい。彼等がいかに物ぐさで、その住む部屋がいかに乱雑で、臭気にみちているかをじかにかいで見たこともありますまい。
 しかし、貴女にもし、遊学されている愛すべき兄弟、恋人がおありなら、ある日、突然、その下宿を奇襲されることをお奨めしましょう。襖をあけられた途端、あなたは、
「まア。いやッ。」
 顔をあからめ、絶句なさるにちがいない。
 この物語は、戦争が終わって三年後の二人の若者の下宿からはじまるのだが、女性の読者を多少、辟易させる部分が出てきたとしても、それは必ずしも、こちらの罪ではない。当時、長島繁男とぼくこと吉岡努は、独身の学生だったのである。二人が共同生活を営んだ神田の下宿は、さすがに蛆まではわかなかったが、夏には自慢できるほどノミがピョン、ピョン飛んでいた。神田の焼けあとや復興したばかりのバラックがみおろせるこの六畳は、それでも下宿難のあの時代に、敷金不要、権利金いらずで、見つけるに随分、苦心したものだった。



『林真理子の名作読本』で紹介されていた一冊です。この小説が一番最初に紹介される名作。横に小さく昭和38年に「主婦の友」に掲載されていたという簡単な紹介文が書かれています。舞台は戦後すぐの東京で、主人公は一流ではない大学に通う吉岡。この吉岡が最初から最後まで、まるで女性の敵とでも言いたくなるような嫌なやつなんですね。今で言うところの肉食まる出しな男です。

吉岡はお金もなく、抱ける女もいない大学生。そもそも戦後すぐのことですから、結婚前に処女を失うことは稀だったんじゃないかと思われます。しかし赤線に行って欲を処理する金もない吉岡は、適当に抱ける女を得ようと田舎出身の女工ミツに目をつけます。ミツは大学生というだけで吉岡に憧れを抱いている。なによりもミツは美しくもなく、家柄もよいわけではありません。吉岡はそんなぱっとしないミツをちょうどよい女として2回目の出会いでミツを抱きます。しかも欲さえ満たされれば即効ミツを邪魔にする。

林真理子さんもおっしゃってますが、この吉岡の態度が最初から最後までムカついてしょうがない。吉岡はミツをはけ口として利用しているにもかかわらず、ミツは吉岡を想っているというのもなんともやるせない気持ちになります。そのうち吉岡はミツの前から姿を消し勤め先の女性と付き合うようになるのですが、その女性は以前ミツと同じ工場で働いていたことのある人だった。吉岡の頭の中にミツの存在がちらつきます。しかし後悔しても、もう遅い。

結末はとてつもなく悲しい小説です。「棄てた」の意味が重くのしかかります。

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・遠藤周作先生といえば敬虔なクリスチャンのイメージがあります。なのにこの作品はなんどもドロッとしている。初めて遠藤作品を読みましたが、こんなに重いのかーという驚きばかりが募りました。

・林真理子さん、この作品を高校生のときにお読みになったんだとか。アラフォーの私が読んでも十分に衝撃的です。高校生ならもっとどきつい小説に感じられるんじゃないでしょうか。



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2010

12/03

Fri.

14:17:57

思い出トランプ 

Category【日本文学


思い出トランプ (新潮文庫)思い出トランプ (新潮文庫)
(1983/05)
向田 邦子

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書き出しをご紹介します。

かわうそ

 指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった。
 宅次は縁側に腰かけて庭を眺めながら煙草を喫い、妻の厚子は座敷で洗濯物をたたみながら、いつものはなしを蒸し返していたときである。
 二百坪ばかりの庭にマンションを建てる建てないで、夫婦は意見がわかれていた。厚子は不動産屋のすすめに乗って建てるほうにまわり、宅次は定年になってからでいいじゃないかと言っていた。定年にはまだ三年あった。
 植木道楽だった父親の遺したものだけに、うちは大したことないが、庭だけはちょっとしたものである。宅次は勤めが終わると真直ぐうちへ帰り、縁側に坐って一服やりながら庭を眺めるのが毎日のきまりになっていた。
 暦をめくるように、季節で貌を変える庭木や下草、ひっそりと立つ小さな五輪の石塔が、薄墨に溶け夜の闇に消えてゆくのを見ていると、一時間半の通勤も苦に思えなかった。文書課長という、出世コースからはずれた椅子も腹が立たなかった。おれの本当の椅子は、この縁側だという気がしてきた。
 厚子も夫の気持が判っているらしく、いつもは二言三言で引き下がるのだが、この日は妙にしつこかった。宅次もいつになく尖った声で、
「マンションなんか建てたら、おれは働かないよ」
と言い返した。



『林真理子の名作読本』に紹介されていた小説です。この本を読んでみようと思った理由は、林さんの感想を読み、きっと人の心の情景がうまく言葉にされているに違いないと思ったからです。著者自身は生涯独身でしたが、この小説では殆どが夫婦をテーマとしたものになっています。

どの作品も主人公は50代に手が届くか、通り過ぎたばかりかという年齢層の男女になっています。全体的にからっと明るい話というよりも、離婚や浮気といったどんより感が漂ってる。しかも現在浮気をしているとかではなく、浮気してしまった当時のことを回想していたり、心のしこりとして残っていたりとやっぱりどこか影がある。

そんな短編が13本載せられているのですが、どれもかなり印象が強いです。読後にタイトルの並んだ目次を見ていると、それぞれの話がまるで自分の身の回りに起きたことであるかのように思い出される。それもパステルカラーのぼんやりした色合いではなく、原色の毒々しさたっぷりの絵を見たかのように、はっきりと浮かんできます。

なるほど。これは読んでよかった。短編なのにこんなにインパクトがあるなんて。これはもう少し年齢が行ってからもう一度読み返したいものです。

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・昔、私の祖母が好んで向田邦子作品を読んでいました。私が本に触れようとすると、「あんたにはまだ早い。30歳過ぎたら読んでみろ」と言われたのを思い出します。

・たしかにこの作品はある程度人生の酸い甘いを経験しなければ共感できないでしょうね。30代でもまだ早いかもしれません。


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2010

11/30

Tue.

22:12:07

旅のラゴス 

Category【日本文学


旅のラゴス (新潮文庫)旅のラゴス (新潮文庫)
(1994/03)
筒井 康隆

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書き出しをご紹介します。

集団転移

 放浪する牧畜民族の集団に加わるのは初めての体験だった。彼らは老人や女子供を含め約四十名のグループで、五十頭ほどのスカシウマ、百七十頭ほどのミドリウシをつれ、ビタハコベなどの生えている自然の牧草地を求めて移動し続けていた。冬が近づくというのに彼らが北へ北へと旅し続けているのは、リゴンドラという北方の都市で牛馬を売るためである。おれは南への旅だった。リゴンドラの南西数キロの牧草地で彼らに出会い、ひとり旅が心許ないため彼らのグループに加えてもらったのだった。彼らと共にいったんリゴンドラまで戻らねばならなかったがそれはしかたがなかった。南方諸都市は旅びとの扱いが手荒く、町によっては旅びとというのは北方から奪われるための金を持ってやってきて、自分たちに殺されるだけの存在だと思っている連中ばかりがいたりするのだ。
 おれは都会育ちだから牛馬と寝起きするのは初めてだった。スカシウマもミドリウシもおそろしく巨大なのでおれは最初のうちどうしても彼らに馴染むことができなかった。ムルダムの一族は飼育しているけものたちと同化していた。都会の人間が競技用や乗物用に飼っているけものたちを馴らすためにはあくまで飼い主として感情移入し、彼らを従わせる方向へとその心理を導くのだが、ムルダム一族はそうではなかった。けものたちに同化するため、四つん這いになったりもするのだ。一族の中で、子供たちにけものとの同化を教育しているのはヤシという若い娘だった。おれは自ら希望して子供たちに加わり、彼女から教えを受けることになった。



SFの印象が強い筒井康隆氏ですが、この小説はファンタジー向きの作品だったように思います。上の書き出し部に登場するスカシウマやミドリウシは実在しないはず。

この本の主人公がタイトルにあるラゴスという青年です。ラゴスは自らを「おれ」と呼びワイルドな印象を与えるタイプですが、実に博識で行動力のある人です。ラゴスの旅は実家のある北方の町から始まり、南方の町に到着してそこで長い時間を過ごしますが、また折り返して北方に戻ります。この間実に30年。

旅を続けるラゴスの前には、いつもいつも新しい町で新しい出会いがあり、事件とも言える出来事に巻き込まれる。行く先々に人生のターニングポイントがあるような旅なのです。奴隷になったり、恋をしたり、歴史書を何年も読み漁ったりと、ラゴスは自分の心の赴くがままに生きている。まるで冒険小説のようなワクワク感に一息に最後まで読みたくなるはずです。

30年もの旅ですから、ラゴスも徐々に老成していきます。その過程がなんとも魅力的。読み進むにつれ、ラゴスがスカシウマと同化するがごとく、読み手もラゴスの旅に同化していきます。この小説の人々は、心を同化させて瞬間移動する技術がある。そして空を飛んだり、人の心を敏感に感じ取ったりと、心の芯に触れるようなエピソードがたくさんあります。ふっと心が軽くなるような小説です。


jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・一生ってなんだろうね、と考えてしまいました。自分に与えられた道をただ真摯に進んでいく。ラゴスの旅にそんな印象を感じました。

・心を同化させるって素晴らしいことですね。人と人のつながりにも、相手を思い図って同化できるほどの心のつながりがあればいいのに。



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2010

11/29

Mon.

17:08:42

永遠の旅行者 

Category【日本文学


永遠の旅行者〈上〉 (幻冬舎文庫)永遠の旅行者〈上〉 (幻冬舎文庫)
(2008/08)
橘 玲

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書き出しをご紹介します。

 夢がどんなものなのか、知らない。生まれてからいちども夢を見たことがないからだ。
 眠りはなにもない空洞だった。
 いや、ほんとうは皆と同じように夢の世界を旅しているのだが、なにひとつ覚えていないのかもしれない。
 夢ってなんだろう?子どもの頃からずっと不思議だった。

 目覚めた直後の曖昧な時間が好きだ。それは、指先で軽く触れただけでこわれてしまう繊細なガラス細工に似ている。
 重いカーテンの隙間からわずかに朝の光が差し込んで、ベッドに淡い光の縞ができている。それかがどれほど美しくても、視線を合わせてはいけない。ほんのすこし気を緩めただけで、世界はあっけなく崩壊してしまうだろう。



上下2巻。タイトルからはなんだか旅行記のような印象をうけますが、著者はあの橘 玲さん。今回は税金がキーワードとなった小説です。

真鍋は今、ハワイの知り合いのコンドミニアムの離れに暮らしながら、決して定住することなく世界を動きまわてっいる。それはたんなる趣味の旅行ではなくて、日本の国籍を維持しながら一歩日本の外に出て「非居住者」という身分となることに重きをおいています。なぜそんなことをするのかというと、税金から逃れるためです。

真鍋はもともと大手法律事務所に勤める弁護士でした。しかし、真鍋には弁護士としての生活に意義を見出せなかった。あっさり退職し、世界を海外へと求めた真鍋。彼がハワイでのんびりしているところへ、変わった話が流れ込んできます。それは、ある一族の財産贈与の話でした。クライアントは療養中の老人で、彼の資産を実の息子ではなく、孫娘に譲りたいという。そしてその際には一円も日本国に税金を納めずに済ませたい。

一風変わった依頼と、次々に登場する人物の魅力に真鍋はこの事件を解決すべく、日本とアメリカを行き来して一つ一つの糸口を結んでいくと言うお話です。

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・私も今の身分は「非居住者」。思えば税金のこと、なんにも考えずに暮らしてきました。万が一私の身に何かあっても、譲る財産なんてないしなーと思ってましたけど、それ以外にもいろいろと知っておくべきことはたくさんあるようです。

・小説としての流れより、税金のトリックの話の方が楽しめたように思います。



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2010

11/26

Fri.

10:45:00

剣客商売 

Category【日本文学


剣客商売 (新潮文庫―剣客商売)剣客商売 (新潮文庫―剣客商売)
(2002/09)
池波 正太郎

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書き出しをご紹介します。

女武芸者

 冷たい風に、竹藪がそよいでいる。
 西にひろがる田圃の彼方の空の、重くたれこめた雲の裂目から、夕焼けが滲んで見えた。
 石井戸のあたりに先刻から、鷦鷯がしきりに飛びまさってい、澄みとおった声でさえずっているのを、この家の若い主は身じろぎもせずに眼で追っていた。
 まるで巌のようにたくましい体軀のもちぬしなのだが、夕闇に浮かんだ顔は二十四歳の年齢より若く見え、浅ぐろくて鞣革を張りつめたような皮膚の照りであった。
 若者の、濃い眉の下の両眼の光が凝っている。小さくて敏捷なみそさざいが数羽、飛び交っているうごきを飽きもせずに見入っているのだ。
 台所から根深汁(ねぎの味噌汁)のにおいがただよってきている。



剣客商売はシリーズとして16巻まで出ています。これはその1巻目。

親子で剣客となった秋山一家。父の小兵衛は修行から戻った息子大治郎を近所に住まわせ、道場を開かせるもなかなか弟子はよりつかない。大治郎はもともと父の仲間だった男とともに、江戸を離れて修行を積んできたのですが、いざ江戸に戻ると父は六十を越えて下女のおはるに手を出して、剣客どころかすっかり引退生活で色の道におぼれています。小兵衛はおはるとともに引退のような生活を送っているのですが、江戸の街に事件は尽きません。あれこれ仕事が舞い込んでくる。

おはるに小舟をこがせて、小兵衛は息子を見舞ったり、江戸城下へ赴いたりと時に忙しく立ち回っています。ある日耳に届いた話によると、江戸を取り仕切る田沼意次になんと庶子がいると言う。それも女剣士で、自分より強い男とでなければ結婚しないとか。その女剣士三冬に婚礼の話が舞い込むのですが、それと同時に身辺怪しい影がつきまとう。小兵衛はこの事件を解決すべく、曲者を退治します。

表紙をよくよく見てみると、左側にかしこまって座っているのが恐らく大治郎で、女の膝に頭をあずけて横になっているのが小兵衛でしょう。耳掃除をしているのがおはるかな?

jumee☆point1d この本を読んで jumee☆point1d

・寒くなるとなぜか時代小説が読みたくなる。江戸のお話は食べ物の話や町人文化の話やらが華やかでいいですね。

・シリーズがまだまだ続くので、少しずつ読んでみたいと思います。






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